アナモックス(Anaerobic ammonium oxidation, Anammox)プロセスは、脱窒素効率が高い、エネルギー消費量が少ないなどの利点から、廃水の窒素除去分野で高い応用の可能性を持っている。その原理は、嫌気性条件下で、アナモックス細菌が亜硝酸塩(NO2-)を電子受容体として使用し、アンモニア(NH4+)をガス状窒素に酸化することである。さらに、リンはカルシウムと反応してヒドロキシリン酸カルシウム(Ca5(PO4)3OH, HAP)を形成することができる。HAPは、安定性が高く、密度が高いため、担体として、anammoxバイオフィルムの付着場所を提供すると同時に、汚泥の沈降性能を向上させることができる。 本研究室では、HAP結晶化反応を用いて、アナモックス反応と組み合わせ、顆粒の安定性と沈降性をさらに向上させ、同時に脱窒とリン回収を実現した。長期運転で高い窒素除去効率とリン回収効率を達成しただけでなく、anammox-HAP顆粒形成の微視的メカニズムを深く探求した。また、極低温(7 °C)での安定運転と嫌気性発酵廃液の効率的な処理を実現した。Anammox-HAPプロセスに関する研究は、アナモックスの大規模な実用化の促進を目指し、資源の開発とリサイクルにより、廃棄物による環境負荷を低減できる。要するに、本研究室は持続可能な資源循環型社会の構築に貢献することを目的としている。
実際の廃水では、窒素は主にアンモニア態で存在するため、亜硝酸塩の生成がアナモックス反応の前駆反応となる。 そこで、NH4+からNO2-を生成する亜硝化反応とアナモックス反応を組み合わせたPNA(Partial Nitritation and Anammox)というプロセスも大きな注目を集めている。AOB及びアナモックス菌を共存させ、部分亜硝酸化反応及びアナモックス反応を一つの反応槽で同時に行う連続流式一槽式アナモックスプロセスも注目されている。図に示すように、アナモックス生物膜はグラニュールの外層で増殖し、HAPはグラニュールの内部に成長し、両者が促進ながら成長する現象が確認された。大きい粒径を有するリン酸塩結晶と微生物の組み合わせはグラニュールの機械的強度及び沈降速度を高める。 それで、沈殿性のよいHAP顆粒は優れた微生物担体として活用され、成長が非常に遅いアナモックス菌の流失を防ぎ、反応槽内十分に高密度に容易に維持することで、アナモックスの安定性と処理能力を高めることができる。
一槽式Anammoxプロセスはより占用面積の小さい長所があるため、アンモニア廃水の低コスト高効率脱窒処理に広く使用されている。一槽式Anammoxリアクターに担体を投入することにより高い生物量を維持し、汚泥流失を減らす。同時に、担体表面に図で示した二層のバイオフィルムが形成した。そのうち、AOBは好気性環境の外側バイオフィルムで増殖し、AnAOBは嫌気性環境の内側バイオフィルムにて増殖した。このような微生物生存空間の差はAOBとAnAOBの高効率共存を実現して、ぷろせすの安定的運転に役に立った。 本研究室では中空円柱形担体を利用して、バイオフィルムの生成特性と担体型一槽式Anammoxプロセス長期安定運転の制御性に関して研究した。そのほか、基質のC/N比がプロセスに与える影響について研究した。上記の研究結果により、担体型一槽式Anammoxプロセスを高濃度アンモニア実廃水(生ごみ消化液、漁業廃水消化液と豚ふん尿消化液)と低濃度アンモニア実廃水(都市排水AnMBR処理水)の処理中、安定的に高窒素除去率を実現した。本研究はAnammoxプロセスが実廃水の脱窒処理中の大規模的な利用を促進でき、持続可能な循環型社会の建設に役に立てると考えられる。
わが国の年間消費電力量の0.7%を占めている下水道分野でも省エネ型設備や機器の導入、下水処理場の運転管理の工夫による省エネ化などを進めている。 最近、新しい下水処理として活性汚泥槽に膜分離装置を入れ微生物処理と膜分離を同時に行う膜分離活性汚泥法(MBR)が実用化された。これは膜の製造技術や取り扱い方が急激に発展してきたものである。一方、富栄養化物質であるアンモニア性窒素も酸化し亜硝酸性窒素に変換し、さらに酸化し硝酸性窒素に変換したのち嫌気状態で脱窒する方式が実用化されているが、有機物の酸化と同様に酸素を必要とする。この分野においても、新しくアンモニア性窒素を嫌気的な条件で脱窒するアナモックス処理が実用化され始めてきた。 このような背景のもと、嫌気MBR とアナモックス処理を組み合わせることにより省エネルギー化が達成できると考え、本開発事業に取り組むことにした。さらに、窒素とリンを同一槽で除去・回収できれば、世界的に見ても例がなく、付加価値が向上することから、一槽でアナモックス処理とリン晶析を行う技術の開発に取り組むことにした。
本研究室では、AnMBRによる食品廃棄物、下水汚泥および高脂質含有廃棄物の単独発酵および混合発酵に関する一連の研究を行った。膜分離により機能性細菌を反応槽内に濃縮し、メタン生成の向上および嫌気性消化処理水質の改善を両立できる。AnMBRは、膜のファウリングの制御や膜洗浄と交換の問題があるため、これまで膜運転の最適化による高いフラックの条件下で安定な長期運転を実現した。また、SEM-EDX、3D-EEM、FTIRとCLSMなど手段により高濃度AnMBRの膜ファウリングのメカニズムと膜洗浄効果を解析した。将来、膜運転の効率化をはじめ、AnMBR処理で生成される膜ろ過液の後処理、バイオガスの利活用、濃縮汚泥処理などの課題の解決を期待されている。
豚ふん尿には多い有機物、アンモニア態窒素、リンなど汚染物質が含まれ、処理せず放流すると、周辺水域に対して、莫大な汚染を招く、水域のエコシステムや人類の健康にも悪影響を及ぼす。本研究室では蔵王のある豚舎廃棄物の高COD濃度と高アンモニア態窒素濃度の特性に対して、本来のSBR酸化溝プロセスに基づいて、PN/A MBR処理プロセスを追加し、PN/AとMBRプロセスを組み合わせ、膜の穴径が細菌より遥かに小さい特性を利用して、Anammox細菌とABOに対する完璧な捕留を実現して、一槽式PN/Aプロセスの安定的運転を実現できる。そのため、現存プロセスの除去できないアンモニア態窒素をはっきり除去することになり、養豚場の放流水水質を向上させる。同時に、豚ふん尿の汚染物質除去のコストダウンするため、本研究室では新たな「活性汚泥法(または嫌気性消化法)+PN/A+PD/A」プロセスを案出して、運転条件の最適化を通じて、嫌気性条件で余剰CODを利用して、Anammoxプロセスから生じる硝酸態窒素(NO3--N)に対して高効率除去効果を果たした。これはPN/Aプロセス中アンモニア態窒素の除去率の89%のボトルネックを解決した。
都市部において発生する有機性廃棄物の適切な処理は、低炭素・循環型社会構築ためには欠かせない。嫌気性発酵を行うことで、大量の有機性廃棄物を処理すると共に、バイオマス中のエネルギーを水素やメタンを含んだバイオガスとして回収可能となる。 二相消化プロセスは酸生成相とメタン生成相を分離させて運転しており、酸生成相では固形物の加水分解と有機酸発酵が促進され、水素ガスも生成されている。メタン生成相では酸生成相から可溶化された基質を受け取り、メタン発酵を効率的におこなっている。ハイタン(Hythane, Hydrogen+Methane、水素とメタンの混合ガス)を生成する能力を持つため、二相嫌気性発酵技術は注目を集めている。 しかし、都市廃棄物はセルロース、油脂、塩分やアンモニアなどの多様な成分を含有し、発生する量と質も日によって変動することから、発酵系の安定した運転の維持が懸念されている。そこで、実用化を目指して安定化・最適化された嫌気性発酵システムの開発が必要となる。我々の研究グループは安定化運転条件(温度、有機負荷、滞留時間等)を考察すると共に、バイオエネルギー生産に向ける最適制御方法 (栄養物質添加、pH調整、消化液返送)を提案すべく、研究に従事している。さらに、国際連携・協力により、実機プラントの応用にも取り組んでいる。
リアクター班がリアクターの運転性能よりプロセス評価を行う一方、我々分子班はリアクター内に存在する微生物に注目し、研究を行っている。 下水処理、取り分け生物処理では、生物の代謝を利用して下水の処理を行っているため、処理に貢献する微生物の生態や機能を研究することは非常に重要である。 これまで当研究室では以下のような研究を行ってきた。 ①「嫌気性消化汚泥内に優先する真核生物の特異的検出と分離培養の試み」 目的:真核生物の特異的な検出 真核生物の新たな分離培養法の解明 ②「細胞表層提示技術を用いたレアメタル回収技術の開発とその応用」 目的:下水中に低濃度で存在する金属の回収技術の開発 ③「埋立地浸出水バイオフィルムに存在するCandidatus Saccharibacteria門の解析」 目的:分離培養例が未だ無い微生物の培養法の解明 これらのような研究を行うことで微生物に関する知識を蓄え、下水処理の高効率化や、新たな下水の活用法、また下水処理だけに捉われない、微生物に関する様々な研究へ貢献することが可能である。
製紙産業や化学産業をはじめ多くの工業プロセスから、有機物及び硫酸塩を含有する廃水が大量に排出されている。エネルギー源の多様化、低炭素技術推進の観点から、嫌気性処理のUp-flow Anaerobic Sludge Blanket(UASB法)は、曝気動力が不要のため省エネルギーであり、メタンガスの回収によりエネルギー生産も可能である。また余剰汚泥の発生量が少ないなどの利点があるため、有機工場排水の処理に広く利用されている。この技術は、嫌気性微生物群の自己造粒化機能を利用してグラニュール汚泥の形成と高濃度保持を行っている。高負荷条件で排水中の有機物をメタンとCO2にまで分解できる優れた排水処理技術であるため、従来処理され辛かった高濃度硫酸塩含有有機合成化学工場廃水へのUASB処理技術の産業化が期待されている。
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